肥満は、脂肪組織が過剰に蓄積した状態で、本邦では体格指数(BMI:Body Mass Index) 25kg/m2以上と定義されます。一方、肥満症は肥満に起因する健康障害を合併し、医学的に減量を必要とする疾患とされ、積極的な治療が必要な病的な状態です。
令和4年の国民健康・栄養調査報告によると、日本における肥満者の割合は男性で31.7%、女性で21.0%に上り、男性では平成25年から令和4年の間でも有意な増加を示しています。また、健診データにおける熊本県の肥満者の割合は、全国平均を上回り、増加傾向にもあることから、県民の健康を守る点からも、肥満、肥満症の啓発、積極的な治療の提供が重要な課題です。
2024年、肥満症の治療に関わる大きな2つの進歩がありました。
一つ目は、2月に、肥満症治療剤として持続性GLP-1 受容体作動薬が認可されたこと、二つ目は6月に減量・代謝改善手術の一つである「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術」の保険適応基準が変更・拡大されたことです。
これらの変更により、①内科的肥満症治療の有効性が向上し、②肥満外科治療が積極的な選択肢となりました。
熊本大学病院では、糖尿病・代謝・内分泌内科が、肥満症治療の窓口でしたが、肥満症に対する内科的治療の進歩や外科的治療の適応拡大にあたり、2024年11月、「肥満症治療センター」を開設いたしました。
まずは、肥満症の診断、二次性肥満(他の疾患で体重が増加する状態)の鑑別、合併症・併発症の診断を行います。そのうえで、診療科を超えた医師の連携のみならず、看護師、心理師、管理栄養士、理学療法士などの多くのスタッフが協力し、適切な食事・運動療法、行動療法の指導を行い、薬物療法・外科的治療を導入します。
県内で唯一、肥満症治療に特化した多診療科、多職種の横断的なセンターで、肥満症に対する内科的及び外科的治療を含む、包括的かつ積極的な治療を提供します。
肥満症の治療の提供とともに、肥満症に関わる研究・教育の推進、医療スタッフの育成、市民への肥満症の啓発活動の推進に積極的に取り組み、熊本県民の健康増進・生活の質の向上への貢献を目指します。
また、肥満症への外科的治療が可能な施設は、北部九州に集中しており、熊本県のみならず、以南の地区においては、地理的な理由で肥満外科治療が選択できなかった患者も多くおられます。中九州、南九州の肥満症治療の拠点として、広く患者を受け入れ、また、熊本大学病院と地域の拠点病院との病診連携ネットワークを活用し、長期的に継続可能な肥満症治療体制を確立していくことを目指します。
〈この記事は2025年2月1日時点の情報です〉
関連ページ 糖尿病・代謝・内分泌内科 肥満症治療センター