以下に示すような各専門領域の診療・手術について、先進的に行っております。
悪性脳腫瘍は乳幼児から高齢者まで幅広い年代に発生する病気ですが、発生率は10万人当たり約5人と少なく、希少ながんに分類されます。希少がんの治療成績は施設で扱う症例数に大きく影響を受けますが、当院 脳神経外科は悪性脳腫瘍の診療に積極的に取り組んでおり、日本でも有数の症例数を誇ります。診断から治療まで確かな知識、豊富な経験に裏打ちされた医療を提供しています。診断では脳腫瘍は100種以上が存在しますが、今日では遺伝子の変異などを基にした分子診断が大変重要となります。分子診断には高度な知識と設備が必要ですが当院では体制が整っています。確かな診断に裏打ちされた最適な治療を提供することが可能です。治療では摘出術、抗がん剤、分子標的薬、放射線治療の組み合わせによる標準治療に加えて複数の臨床試験も行っており、各病態に応じた治療選択肢を提示しています。加えて、新規治療に向けた研究についても、積極的に取り組んでいます。
髄膜腫や神経鞘腫に代表される良性脳腫瘍は、一般的に緩徐に増大することが多いため、症状の有無、年齢、性別、社会的役割など総合的に判断して、治療をするのかしないのか、治療するならいつ、どのようにするのか各々の患者さん方と個別に相談しています。当院での治療を受けていただく患者さんには脳深部(頭蓋底)に腫瘍が存在する方が多くおられ、脳の他の部位と比べて治療にリスクを伴う可能性が高くなります。治療に対する不安を可能な限り取り除くために3つの工夫をしています。1)術前に通常のCTやMRIなどの画像検査を受けていただいた後、AIを用いた医療用画像処理を行い、3次元シミュレーションに基づいた術前計画を立案します。2)積極的に術前に栄養血管塞栓術(カテーテル治療、局所麻酔)を行います。手術中の出血量を極力減らし、手術時間を短縮し、合併症の発生率を減らします。3)術中電気生理学的モニタリングをしっかりと行います。手足の運動・感覚の状態や、視力・聴力などの脳神経に異常が出現しないかリアルタイムに電気刺激を行い、正常機能の温存を目指します。特に聴神経腫瘍の摘出術の際に行う持続顔面神経モニタリングは熊本県内では当院のみで実施しています。
脳深部に位置する下垂体腫瘍の手術は、現在では低侵襲で視認性に優れた経鼻神経内視鏡手術が主流となっています(図)。
当科では、2001年に九州で初めてこの手術法を導入し、多くの症例経験を積み重ねてきました。その豊富な経験を基に確立した当科独自の治療法をご紹介します。
術中に成長ホルモン値を測定しながら腫瘍を摘出することで、多くの患者さんにおいて術後の成長ホルモン値が正常化し、難治性だった高血圧や糖尿病などの症状が改善しています(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28602880/)。
治療が非常に難しいとされる頭蓋咽頭腫の治療では患者さんのQOLを最優先に考え、神経内視鏡手術と定位放射線治療(ノバリス)を組み合わせた集学的治療を実施しています。このアプローチにより、視機能(視力・視野)や内分泌機能を温存しつつ、良好な腫瘍制御を実現しています(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38244528/)。
下垂体近傍腫瘍に対し経鼻神経内視鏡で骨を広範囲に削り摘出する拡大法を2004年から導入し、術後には高い視機能改善率が得られています。課題として術後の髄液漏(髄液が漏れてしまう病状)が挙げられますが、2018年から当科の篠島が考案した独自の対策を導入した結果、術後の髄液漏は一例も発生しておりません。拡大法は低侵襲で治療効果の高い術式ですが県内では当科でのみで実施可能です。
当院では、開頭による直達手術と脳血管内治療(カテーテル治療)の両方を提供しており、患者さんの状況に応じた最適な治療法を選択しています。
直達手術:脳動脈瘤のクリッピング術、バイパス手術、頚動脈内膜剥離術などを主に行っています。
脳血管内治療:最近の技術進歩により、新しいデバイス(器材)を早期に導入し、脳動脈瘤の塞栓術やステント留置術などを行っています。これにより、患者さんに対してより低侵襲で効果的な治療を提供することが可能です。
稀少疾患に対する治療:もやもや病や硬膜動静脈瘻などの稀少な疾患に対しても豊富な治療実績があり、遠方からも多くの患者さんが来院しています。これらの疾患に対する専門的な知識と経験を活かし、患者さん一人ひとりに最適な治療法を提案します。
機能神経外科は、脳や脊髄の病気によって起こる、様々な体の不調を治すことを目指す専門分野です。パーキンソン病や本態性振戦、ジストニアなどの不随運動疾患やてんかんのような疾患を対象としており、当院では以下のような外科的治療を行っています。
脳深部刺激療法(DBS):脳の特定の場所に電極を埋め込み、電気刺激を与えることで、体の動きや感覚を改善します。
視床凝固術:脳の視床という部分に熱を加えて、異常な信号を遮断し、症状を改善します。
てんかん焦点切除術:てんかん発作を起こす脳の異常な部分を切除します。
迷走神経刺激療法:首の迷走神経に電気を流し、てんかんの発作を抑制します。
〈この記事は2025年1月1日時点の情報です〉